創成川の東側、とあるビルの一階。
入口を挟んで反対側のおしゃれなカフェを横目に、静かな雰囲気のギャラリーの扉を開けるとそこには優美なモノクロームの世界が広がっていました。
展示概要
展示作品はすべてモノクローム。
イラストレーターでもあり、アニメーターでもあり、さらに彫師でもあるCENさんの作品です。
今回の展示では写真を使った作品のほか、フランスで販売したという高さ40センチほどのキューピー人形もありました。
壁面のパネル展示を中心として、中央のテーブルに無造作に積まれた額入りの小品、広げられて置かれたままの作品など、一風変わった展示の演出の仕方が印象的な展覧会でした。
キャビネットの作品

ギャラリーの入口を開けるとガラスのキャビネット上、タトゥーを施されたキューピー人形がお出迎え。
キャビネットの中には女性が描かれた作品があります。
なんとなく憂いを帯びていて、謎めいていて、理想的な美しい女性。
この作品はCENさんがお嬢さまとお庭の枯れ葉を集めて焚き火をした灰から作った墨で描いたとのこと。
ほのぼのとした制作の背景とクールな女性の表情のギャップに戸惑います。
壁面のパネル作品

壁面に展示された作品は、タトゥーが施された被写体の写真です。
が、実はこれ写真の上に更に墨をのせて描き、それをスキャニングした作品。
よく見ると左下に小さな写真が見えますが、原型はスマホで撮った隣のカフェのお姉さんやお兄さん。
あらかじめ撮影があることを知らせず、自然のままの状態を撮ったそう。
そんな風にして撮った写真に今度は墨を使って図柄を描きこみ、再度スキャンニングして作品としているとのこと。
一見するとタトゥーを入れた人の写真かと思いきや、実は二次元の平面上で作り込まれた手の込んだプロセスで制作されています。
皮膚にそって滑らかに描かれた優美な図柄や、正面に大きく飾られた花瓶の作品には、植物のような煙のような生き物のような、優美な弧を描いた文様が描かれています。
しなやかな曲線は、弦のように強く、軽やかで、華やか。
何の迷いもない線の美しさに魅了されます。
テーブルの上の作品

テーブルに広げられた長い紙にはカラスと気の良さそうな老人の上半身。
老人はアメリカで暮らしていた際の隣人だそう。
今でも交流があるというその言葉どおり、絵から抜け出てこちら側へ出てきそうな親近感のある
作品。
額に入った小品は、洋書のページの上に描かれたもの。
お花や女性を描いたものの他にロートレックを描いたものもあり、一つ一つ見ていて楽しい。
装飾されたキューピー
キャビネット上のキューピーよりふた周りほど大きな作品でした。
30体制作した際の残りの1体でフランスで一体100万円で売れたそう。
※CENさんは作品の収益をすべて寄付しておりその額は4億円をくだりません。
CENさんがアーティストになるまで
小さい頃、海で溺れていたところを助けられた。
ヒーローに見えたその人のカラダには刺青があった。
さらりとフライヤーにも記されているこのエピソードですが、この時CENさんは同時にご家族を亡くされていて、決して大げさな話しではなく人生の転換点といえる出来事になりました。
そしてこの出会いをきっかけに刺青の世界に強く惹かれるようになります。
近所の彫師のもとへ足繁く通い、デッサンのみならず寺社仏閣を描くときには、使われる材の木目の向きにまでこだわるなど、刺青にまつわる日本文化を叩き込まれることになるのです。
小学生の頃には、そんなCENさんに腕や体に絵を描いてもらおうと休み時間に同級生たちが列をつくるほどでした。
そうこうするうちに高校生になり彼女ができましたが、彼女は病気で夭逝してしまいます。
バスケが大好きだった彼女に手向けるため、代わりに自分がバスケのプロになりアメリカに行くという、大胆な決意をして実行していくcenさん。
しかし、なかなかプロとして活躍の機会がなく、生活のためにかつて得意だった絵師の才能を活かして絵を売り、アニメーターや彫師を生業としていくようになったのです。
因みにCENの名前の由来は「千と千尋」の千、そして「美しい線を描く」ことから線というふたつの意味があるそう。
展覧会の会期
2025年2月23日〜3月9日
アクセス&駐車場情報
〒060-0051
札幌市中央区南1条東1丁目2−1
太平洋興発ビル1階
駐車場無し
※近隣の駐車場をお使いください。
まとめ
現在は彫師としてもアニメーターとしてもご活躍されている、ロートレックやゴッホが好きというCENさんは、とっても優しく穏やかで気さくな方。
実はお向かいのカフェの壁の猫の絵もCENさんが描いたとのこと。
タトゥーという言葉になんとなく抵抗感がありましたが、CENさんの言葉からは日本の文化を愛する気持ちも伝わってきて、今までのタトゥー観が変わった気がしました。
不自然に飾らず、そのままの被写体から作品を作ろうとする姿勢からは、大事な人との別れを経験しているからこそなのか、何事からも目を背けないという静かな意志の強さが感じられます。
とっても優しいっていうことは、とっても強い、ということなのかもしれません。
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